美少女ゲーム史上に名を残す大傑作『同級生』のリメイクが発売されるという話題で色めき立ったのが昨年のこと。筆者もこの作品には強い思い入れがあり、オリジナル版、Windows版、移植版と遊んだうえに、ノベル版なども楽しく読ませてもらい、当時の年齢なりに強い感銘を受けていた。
しかしこの充実した時間はもう随分と過去のことで『同級生』の思い出というのは箱の中に綺麗にしまわれていて、動かないものとなっていた。リメイク版が発表されたときに驚きと喜びもあったが、それよりも強く感じたのは名作としての『同級生』の記憶や自分の中での評価がリメイク版で書き換えられてしまうのではないかという不安だった。
近年、さまざまなゲームのリメイクを目にする。そうしたリメイクは過去の傑作を今の環境で楽しむことを目的としたものが多いが、実際に遊んでみると”こんなものか”と拍子抜けすることがある。
偉大な過去の名作も時が経った今遊ぶと古臭いものに感じたり、それどころかリメイクという目的だけが達成されて、遊び心地はオリジナル版に劣るというものすらでてくる。こんなことならリメイク版など出なければよかったと思ったことも一度や二度ではない。
そんな風に発売前は期待と不安が同居していた『同級生リメイク』だったが、遊んでみてすぐに考えを改めた。今のアドベンチャーゲームのユーザーインターフェースをベースに組まれたユーザーに優しいプレイフィール。竹井正樹先生のオリジナル版原画をベースに、すめらぎ琥珀先生が新たに命を吹き込んだキャラクターたちも『同級生』のヒロインとしてぶれることなく目の前に現れた。
シナリオもほとんど当時のままで、端折ったところはひとつもない。しかも、私が購入した豪華版に至っては、オリジナル版『同級生』が現在のパソコン環境で遊べるという行き届いた原作ファン向けのサービスまである。
今回はそんな原作ファンを唸らせ、そのうえで本作をまだ知らない方にもきっと刺さるであろう傑作『同級生リメイク』のレビューをお届けする。(ライター:神山小道)
今風にリメイクされた部分もあるが
中身は間違いなくあの『同級生』!
オリジナル版から大きく変わったのは、すめらぎ琥珀先生によって描きなおされた原画に基づくキャラクターやイベントCGだろう。オリジナル版の竹井正樹先生は、ファンにとっては神様のようなイラストレーターなので、オリジナル版のファンからすると竹井正樹先生で続投してほしいという思いも確かにある。
そんな原作愛が爆発して、本作はオリジナル版をないがしろにしているという批判の気持ちが芽生える方も居るかもしれないが、実は本作はオリジナル版のスタッフも交えつつ作られた魂の籠ったリメイクなのだ。開発は元elfのスタッフも在籍するシルキーズプラス、しかも竹井正樹の絵はなくなったわけではなく豪華版を買えば現在の環境で遊べるMS-DOS版ベースの『同級生』がおまけとしてついてくるし、本作の特典イラストにも名を連ねている。
しかもネタバレは避けるが、本作をプレイしていると、本作の開発陣がいかに竹井正樹先生が大好きなのかわかる瞬間が訪れる。そんな制作スタッフが選んだすめらぎ琥珀先生の手によるビジュアルのリメイクは、新鮮かつ、奥をみていくと懐かしさが姿を見せる最高の塩梅のものになっている。原画の変更がひっかかるという方も、まずプレイしてみてほしい。
シナリオについてはオリジナル版のものをほぼ踏襲している。現在の倫理基準に合わせて若干変更されている部分はあるが、過不足は基本的にないと考えてもらっていい。『同級生』の爽快な部分であった、主人公の中にあるふしだらな考えが漏れ出して、時にはヒロインにそれを言葉にしてぶつけるアグレッシブさは今見ても新鮮で笑いを誘うものになっている。
ヒロインたちも理不尽な主人公の欲望に対抗するが、そこを恋や愛をエネルギーに進展させていくさまは見ていて飽きない。Hシーンは現在ほどフェティッシュなものはなく、一ヒロインに1シーンくらいの分量だが、決して淡泊ではなく底抜けにエロティックである。ヒロインの台詞、地の文、そしてマウスを使って“触る”という行為が一体化した体験は、今の時代も刺さる。
ヒロインのボイスについても、聴いてみると驚くほど不自然さがない。シナリオが当時のままで、キャストの方々には当時を知らない方もいる中で、きわめて高いレベルで『同級生』ヒロインたちを生み出している。移植版やOVAなどで声付きの『同級生』に触れた方は、キャストの変更というのは大きな出来事だが、プレイすれば受け入れられるものになっているはずだ。
今のアニメやゲームコンテンツのヒロインのように、強めにキャラクターづけされた喋り方をする作品ではないため、演じ分けが難しいタイトルだとは思うのだが、目を閉じてボイスを聞いても、どのキャラクターなのかすぐにわかる。それくらい本作のシナリオとボイスの親和性は高い。
“イージーモード”と最新のUIを実装した遊びやすさも魅力
しかもこのシナリオを気軽に楽しみたい人向けに、本作はイージーモードというサクサク進められる低難度モードがある。ヒロインの出現時間を探りながら町をウロウロしなくてもいいし、時間をつぶすためだけの行動をする必要もなくなった。もっと簡単に遊ぶのなら、ヒロインのイベントに直接ジャンプできるモードなども用意されている。
これらを活用すると拍子抜けするほど簡単にお目当てのヒロインを攻略できてしまうが、これはこれで悪くない。オリジナル版を含めて何度もプレイしているという方のおさらいにも最適だ。
「いや、『同級生』はあのちょっと手間のかかるゲームらしい手触りがいいのだ!」という方も安心してほしい。オリジナル版の難度を再現したクラシックモードで遊べば、当時に近いプレイフィールを楽しめる。もちろん、既読スキップや複数のセーブスロットなどUIは今風のものに進化しているので必要以上に不便ではない。
イージーモードでプレイした場合は、ヒロインの会話中での選択肢の”答え”がわかるようになっている。つまり、好感度が上がる選択肢と下がる選択肢が可視化されるのだ。
筆者は過去の記憶を頼りにこの選択肢を眺めつつ、そういえばこれだったなあなどど感慨にふけっていたのだが、中には「これが正解だったのか」と思わされるような選択肢があることに驚いた。筆者がオリジナル版や移植版で正解だと思っていたものは実は正解ではなかったり、またはほかに正解があることがこの答え合わせで明かされて驚かされた。
そうした巧妙な選択肢や、最新のUIの上に載せられているとはいえユニークなフラグ管理などは、当時にしてものすごいクリエイティブの賜だったのではないかと想像させられる。当時遊んでいたとき『同級生』は当たり前のように傑作だったが、今遊ぶと当時感じなかった凄味が俯瞰的に見えてくる。そしてリメイクとはいえ、これを作り直すのは大変な作業だっただろうと今の開発陣の情熱を想像する。
素晴らしいリメイク作品である。美少女ゲームの金字塔である『同級生』がまさかこんなに高いクオリティで、今の感覚でプレイしても面白いものとして出てくるとは思わなかった。最新のUIのおかでげ行き詰ることがなく、ストレスなく『同級生』のキャラクターやシナリオ、サウンドなどを楽しむことができた。そしてそうした表現に集中すると、『同級生』がまだ古びていないことが実感できてくるだろう。
また、当時のプレイヤーが遊ぶと、年齢を重ねた分だけ自分の変化が実感できて面白い。筆者は好きなヒロインが舞だったが、今遊ぶとちはるや真子が魅力的に見えてくる。異性への欲望ほどばしる主人公の接し方が巧みで、当時は感じなかった大人の魅力的なものをひしひしと感じている。……と、いろいろ語りたくなってしまうくらい、すっかり本作にやられている。
古くからの美少女ゲームファンとしては、未プレイの方にも是非本作を遊んでほしい。かつてのプレイフィールを追いかけるのならクラシックモードで、サクサク遊びたいならイージーモードでいいだろう。昔このゲームの攻略に苦心したものとしては、「いっかいはクラシックモードで遊んでみてください」といらぬ助言をしたくなるが、自分の好きなように遊んでもらいたい。そして、できることならば”豪華版”を購入し、オリジナル版の持つ魅力にもぜひ触れてほしい。二つの作品を遊ぶことで見えてくるものもきっとあるはずだ。
■タイトル:同級生リメイク
■ブランド:FANZA GAMES
■定価:通常版 10,780円(税込) / 豪華版 11,880円(税込)
■メディア:DVD-ROM
■発売日:2021年2月26日
■対応OS:Windows 8.1/10
■ジャンル:恋愛シミュレーションADV
■原画:すめらぎ琥珀
■備考:豪華版特典 (1)最新Windows対応 初代「同級生」 ※1992年に発売した、MSDOS版のWindows対応版となります。 / (2)竹井正樹先生「生原画」抽選プレゼントキャンペーン応募用シリアルコード
■公式サイト:http://www.fanzagames-digination.com/doukyusei_re/
■FANZA GAMES ダウンロード版購入サイト:https://dlsoft.dmm.co.jp/detail/fanzagames_0003pack/