【開発者インタビュー】色鮮やかに蘇った名作『同級生リメイク』を作り上げた情熱を追う

かつて多くの美少女ゲームファンを魅了し、その後に続く恋愛アドベンチャーゲーム、シミュレーションゲームに大きな影響を与えた傑作である『同級生』のリメイク作品が発売される。2020年に突如FANZA GAMESからもたらされたそのニュースは、多くの美少女ゲームファンを驚かせた。

そのうえただの移植ではなく、オリジナル版に改良を加えた1999年Windows版をベースに、原画家を変更して遊びやすさを追求した“イージーモード”を入れるという。見た目と遊び心地が大きく変わることで、あの懐かしい『同級生』の良さが消えてしまうのではないかと考えた方もいるかもしれない。初報とほぼ同時に予約が開始された時、「思い出の作品だから買っておこう」という方が多かったように思う。
しかし、発売日を迎えてプレイをはじめて見ると、懐かしいという暖かな感覚を超える、新鮮な美少女ゲーム体験が本作には詰まっていることに気づいてしまう。本作はただのリメイク作品ではなく、かつての『同級生』ファンにも、新規で遊ぶプレイヤーにもしっかりと届く傑作なのだ。作品にちょっとでも隙があれば”リメイクなんてするべきじゃなかった”と言われてしまうかもしれない美少女ゲームの金字塔を、丁寧なリメイクでユーザーの元に届けたキーマン、松田泰明プロデューサーに話を伺った。

(ライター:神山小道)

松田泰明。DiGination所属のプロデューサー。

『同級生リメイク』制作を支えた”作品愛”

――まず、『同級生リメイク』企画が立ち上がった時期や経緯についてお聞かせください。

松田:社内にあるIPの有効活用というのは前提としてありますが、私自身が『同級生』の大ファンだからです。一番好きなタイトルはと言われると『同級生』で、オリジナル版にも移植版にも思い入れがあります。

まだ『同級生』は現在の環境向けにリメイクされていないというのは常々思っていて、機会をうかがっていたところに、MAGES.さんから『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』のリメイク版がPS4/PS Vita/Switchで発売されました。この動きに触発されて、より企画が具体的になりましたね。

――社内に企画を提出した際の反応はいかがでしたか?

松田:面白そうだからやってみたらという前向きなものでした。「お前らおっさんが好きでほしがるゲームなんだから、好きに作っていいよ」というふうに送り出してもらったのはありがたかったですね。

――リメイク版の企画を練る際に重視されたことをお聞かせください。

松田:かつての『同級生』ファンに喜んでもらいたい。そして新しいユーザーに『同級生』という名作を届けたいという2つの柱が考えとしてありました。そしてこれを両立するのが今回のミッションだと制作チームで共有していました。両立のためにやったことというのはたくさんあるのですが、ひとつ例を出すと、リメイクを行ううえで「原画家さんを変える」というのは早い段階で考えていました。これは『同級生リメイク』という作品の新しい顔になり、新しさの象徴にもなります。

ただ、これだけやってしまうと「オリジナル版の絵が良かった」という方も出てきますよね。これはどちらの原画家が優れているということではなくて、好みとか思い入れの問題によるところが大きいです。そこで、希望する人には”豪華版”としてMS-DOS版をつけてしまおうというのも最初に考えました。

実はこの“豪華版”は初回限定版とか初回生産版というものではなくて、我々がソフトを販売する限りは売り続けていくものと位置づけています。買い逃して遊べないというのを避けるためですね。

▲本作の原画はオリジナル版の竹井正樹先生が制作したものをベースに、すめらぎ琥珀先生が新たに命を吹き込んだものになっている。新鮮でありながら、ヒロインたちのもつ懐かしい雰囲気はしっかりと継承されているように感じる

――竹井正樹先生のイラストが特典物として付属していました。こちらはオリジナル版ファンに向けたサービスでしょうか。

松田:オリジナル版へのリスペクトをアイテムにしたものですね。『同級生リメイク』を作るにあたって、オリジナル版の関係者に連絡を取ったのですが、皆さん快諾していただきました。制作陣の一部の方には「同窓会のような作品作り」になったようです。

今回開発をお願いさせて頂いたシルキーズプラスさんには、オリジナル版に関わったというスタッフさんもいらっしゃいますので。

――原画をすめらぎ琥珀先生に依頼した経緯についてお聞かせください。

松田:繰り返しのようになりますが、原画を変える理由は竹井正樹先生の絵が古いというわけでは全くないです。リメイクとなったときに一番変化を出せるのは絵だろうということで変えることにしたのですが、オリジナル版は皆さんご存じの通りクオリティが高い絵が揃っていますし、ヒロインはもちろん、サブキャラクターも味があるんですよ。

そういった多彩なキャラクターを描き分けられる絵師さんとなると、すめらぎ琥珀先生以外にないだろうと考えました。ちなみに、本作の開発がスタートしたのは2019年の秋なのですが、最初2年半くらいかかるかなと思っていたんですよ。

――2019年の秋というと、実際の開発期間はおよそ一年半でしょうか。この規模のゲームにしては短いようにすら感じるのですが。

松田:『同級生』のイベント絵は150枚以上あるので、いくら元の原画に忠実な構図とはいえ、一ヶ月に10枚ずつ書いてもらっても1年半近くかかります。

そこからゲームに組み込んでデバッグして……となると、もう少し開発に時間がかかるかなと予測していたのですが、すめらぎ琥珀先生がスケジュールを守りつつもクオリティの高い絵をあげてくれるので、想像以上に順調に開発が進みました。

もちろんこの円滑な進行は開発スタッフのおかげでもありまして、特にシルキーズプラスさんにはお世話になりっぱなしでした。

――シルキーズプラスさんは元elfの方がいらっしゃる開発会社ですが、『同級生リメイク』ではどのような役割を担われたのでしょうか。

松田:開発のほとんどですね(笑)。シルキーズプラスさんに残っている記憶や資料が驚くほど鮮明だったんです。複雑なフラグ管理と独特のシステムを持つゲームなので、リメイク前にどうオリジナル版をかみ砕くかという時間があったのですが、そこがスムーズに進みました。

あとは、シルキーズプラスさんが、現在も熱心にアドベンチャーゲーム作りに取り組んでいる会社ということで”『同級生』を今のアドベンチャーゲームのシステムに落とし込む”という難題にも対応していただきました。

変えたものと変えなかったもの

――『同級生リメイク』の驚くべきところは、イージーモードという完全にリニューアルされた遊びやすいモードと、かつての遊び心地を踏襲したクラシックモードを設けているとことですよね

松田:それもオリジナル版と新規ファン、どちらにも届いてほしいという開発コンセプトが実現したものですね(笑)。開発陣としてはかなり力を注いだ部分で、原画はすめらぎ琥珀先生が新鮮な変化を盛り込んでくれたので、我々はシステムをきっちり作るという意識で製作に臨みました。

イージーモードを全力で使うとかなりイージーになってしまうのですが、これは若いスタッフの意見で「エロゲってほとんど手放しでやるものですよね」というものが出てきて、これを真剣に検討した結果です。

若いプレイヤーさんの中には、アドベンチャーゲームは基本的にオートプレイで遊んで、選択肢が出てきたときだけマウスを使って選択するという方も多いんですよね。私は古いファン目線だからか、あまりにも簡単にしてしまうとトライアンドエラーをすることで得られる『同級生』の喜びが消えてしまうのではないかと心配したこともあったのですが、最終的には「両方入れよう」ということにしました(笑)。「『同級生』は難しいからこそ『同級生』」という方はクラシックモードで楽しんでいただければ。

▲『同級生リメイク』の設定画面。ここでは、サクサクと進められるイージーモードとクラシックモードを切り替えられえるほか、既読スキップや選択肢オートセーブなど、今時のアドベンチャーゲームらしい機能も設定できる
▲ヒロインの攻略フラグを可視化しつつプレイできるモードも用意されている。イベントへと直接ジャンプできるため、オリジナル版以上に同時攻略可能数が増えているとのこと

――イージーモードを遊んで驚いたのは、本当に攻略本いらずのゲームになっていたことでした。どの選択肢が最適かというのがわかるようになっているのですが。自分がかつて最適な選択肢だろうと思っていたものが実は違っていたりして、長い時間を経た答えあわせができました(笑)。本作のシナリオや攻略フラグについては、オリジナル版から変化していないのでしょうか。

松田:シナリオの描写については、いまの倫理基準に合わせた部分は多少ありますが基本的な流れはそのままです。たとえば、お酒を飲むという場面などはソフトドリンクに変更しています。

こうした描写の変更はリメイク版と豪華版の付録のMS-DOS版両方に適用していますが、シナリオはオリジナル版を極力尊重する形になっているので、当時のファンが遊んでも違和感はないはずです。

企画の最初のほうで、蛭田さんのシナリオをそのまま使うというのを決めて、背景画についてもなるべく当時を再現するという形にしましたね。一時期、薄型テレビなどを描いていたのですが、ブラウン管に差し替えました。

▲主人公の部屋のPCモニターを薄型にする案もあったそうだが、最終案ではシナリオの時代に合わせることを選んだという

――攻略フラグについてはいかがでしょうか。

松田:こちらも、攻略の道筋については変更していません。変更した部分は、整合性として疑問が残った部分ですね。

リメイク版を作る前にオリジナル版を分析しているときに知ったのですが、実はオリジナル版はHシーンを見なくてもエンディングにいけるキャラクターが存在したんですよね。これは攻略の面白さとしてはありかもしれませんが、ゲームとしては流れを整えようということでフラグ管理を一部だけ変えました。この現象を知らない方であれば、何の違和感もないと思います。

あとは、フラグをいじったというわけではないのですが、イージーモードが追加されたことで11人同時攻略が可能になっています。興味のある方はチャレンジしてみてください(笑)。

▲本作では、Hシーンを見ることもエンディングの条件になっているそうだ

――本作のサウンド的な部分で据え置いた部分、変えた部分についてお聞かせください。

松田:まずBGMについては、オリジナル版の楽譜をもとに再録を行いました。楽譜上でのアレンジはせずに、今の環境で撮り直すという形です。生楽器に近い形で聞こえるようになっているのではないでしょうか。

声優さんについては、移植版などで声入りの『同級生』がありましたが、リメイク版は新しい声優さんに演じていただきました。開発チームの声優さんに詳しいスタッフが悩みに悩んで選び抜いた声優さんたちです。新しい声が入ったことは原画と同じく大きな変化ですが、シリーズのファンの私が遊んでも、声優さんたちに違和感がないというか、ぴったりハマっているんですよ。

――声優の皆様は『同級生』という作品をどのように捉えていたのでしょうか。

松田:皆さんに話を聞けたわけではないのですがオリジナル版の『同級生』を知らない方もいらっしゃって、調べた結果当時のビッグタイトルであることに驚いていた方もいらっしゃいましたね。皆さんそれぞれに台本を読み込んできてくれて、躍動感あるキャラクターを演じてくれました。

『同級生』のシナリオの中で登場するアイテムや時代を現す要素などは今からすると古いものもあるのですが、物語の芯になる部分って、若い方にも刺さるものになっていると思うんですよ。声優さんたちも、感情移入しつつ演技してくれたのかなと思います。

――『同級生』のシナリオの魅力についてお聞かせください。

松田:普遍的にぐっとくる要素が詰まっていると思いますね。オリジナル版が発売されて以来、いろいろな名作が美少女ゲームでも出ましたが、その中にあっても色褪せないものだと思います。

リメイク版のデバッグをする段階くらいでプレイを通しで進めたのですが、私の年でまだわくわくできたんですよね。好きな物をリメイクしている、いいものにしたい、そういう気持ちはありましたし、ユーザーさんの喜ぶところモチべーションに仕事をしていたのですが、プレイしたときにニュートラルな気持ちで自分がすごく楽しかったんです。

個人的な感覚ですが、冗長すぎないところも『同級生』の良さかなと思っています。遊ぼうと思ってはじめたら、数時間で1キャラクターをクリアーできる。でも短いとは感じないし、充実した体験が残ります。忙しい方にも遊んでほしいですね。

▲イージーモードでプレイすると、選択肢の正解も教えてくれる。オリジナル版をプレイした方の”答え合わせ”的な使い方もできる

――変えたところ、変えていないところをお聞きできてうれしいです。

松田:久々に長時間デバッグしました(笑)。通常のアドベンチャーゲームのデバッグって演出まわりがほとんどなんです。スクリプトがちゃんと機能しているかというのを重視することが多いです。

しかし『同級生リメイク』の場合ははじまりにすぎなくて、ちゃんと攻略ができるかという部分の検証が大変でした(笑)。ここはデバッグ時点でイージーモードを作っていて良かったとほっとした部分でした。

▲選択肢だけで分岐するタイプの作品ではないため、デバッグには時間をかけたという

『同級生リメイク』のこれまでとこれから

――『同級生リメイク』発表時についてお聞かせください。初報はネットニュースなどでも大きく取り上げられましたが、手応えはいかがでしたか。

松田:初報はいきなりネットで告知して、すぐに予約できるようにしようというプロモーション戦略を練っていました。

『同級生』というタイトルの大きさもあるので、それなりに反響はあるだろうと予想していたのですが、告知してみると予想を大きく上回る反応が来たんです。そこで手応えを感じましたし、きっちり作りきらないといけないと引き締まる気持ちでした。

――貴重な生原画のプレゼントなども話題になりました。こちらはどのような経緯で実現したのでしょうか。

松田:原画のプレゼント企画については賛否出るかもしれないとは考えましたが、チームで相談して実施することにしました。

我々のほうで管理しつづけるというのもひとつのやり方だと思うのですが、このリメイクがなければ倉庫で眠っていた物でもあるんですよね。それを有効に活用しようと思ったときに、原画展や原画プレゼントという企画があがってきました。ユーザーさまのところで大事に扱ってもらえれば幸せですね。

――今後の『同級生』、『同級生リメイク』の展開などについてお聞かせください。

松田:『同級生リメイク』は、グッズを作りたいという声を外のメーカーさんからいただいています。あとはコラボカフェについても企画していまして、決まり次第公式サイトや公式Twitterで告知していきます。興味のある方はチェックしてみてください。

また『同級生』つながりで弊社では『同級生~Another World~ 』という基本無料のゲームをも運営しているので、もう少し『同級生』成分をという方はこちらもチェックしてみてください。

――これも気になる方が多いと思うので聞いてしまいますが、『同級生』以外のelf作品のリメイクなどについてはどのようにお考えでしょうか。

松田:やりたいですね。『同級生2』も『下級生』も。そのほかにもいろいろやりたいタイトルがあります。『同級生リメイク』が好評なので、社内で提案しやすい環境ですし、できる限り動いてみようと思っています。

――読者の方々にメッセージをお願いいたします。

松田:私はオリジナル版の制作陣ではないので大きなことをいうと怒られそうですが、『同級生』が大好きなスタッフたちで作った作品です。かつてプレイしたという方も、初めて遊ぶという方も楽しめるものを目指したので、記事を読んで興味を持ったら是非プレイしてみてください。実は本作のダウンロード版はFANZA GAMESの取り組みの一環で、ブラウザでのプレイにも対応しています。スマートフォンやタブレットでも遊べるので、PC以外でのプレイも検討してみてください。

すでに遊んでくれた方々には、本当にありがとうございますとお礼を言わせてください。次も発表できるときがきたら、よろしくお願いいたします。


■タイトル:同級生リメイク
■ブランド:FANZA GAMES
■定価:通常版 10,780円(税込) / 豪華版 11,880円(税込)
■メディア:DVD-ROM
■発売日:2021年2月26日
■対応OS:Windows 8.1/10
■ジャンル:恋愛シミュレーションADV
■原画:すめらぎ琥珀
■備考:豪華版特典 (1)最新Windows対応 初代「同級生」 ※1992年に発売した、MSDOS版のWindows対応版となります。 / (2)竹井正樹先生「生原画」抽選プレゼントキャンペーン応募用シリアルコード

■公式サイト:http://www.fanzagames-digination.com/doukyusei_re/
■FANZA GAMES ダウンロード版購入サイト:https://dlsoft.dmm.co.jp/detail/fanzagames_0003pack/

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