【レビュー】Keyブランドの持ち味がここに!切なさを凝縮したキネティックノベル『LOOPERS -ルーパーズ-』の魅力と見どころ

『AIR』や『CLANNAD』などの大作ノベルゲームで知られるKeyの最新作『LOOPERS -ルーパーズ-』は、ダウンロード版が税込みで1980円。ゲーム的にはロープライスという分類になるだろうか。

美少女ゲームファンは、最近流行りの「低価格だが十分に遊べるソフト」を想像するかもしれない。実際、ロープライスの作品にも傑作は多く、特に18禁シーンの実用性に富んだ作品は注目を集めているが、全年齢対象、しかもKeyの作品というとどうだろうか。

Keyといえばシナリオの構築に定評のあるメーカーだが、1980円というプライスの範囲で、良いシナリオに飢えたユーザーを満足させられるのかと疑問に思う方もいるだろう。

▲今回紹介するのはKeyの最新作である『LOOPERS -ルーパーズ-』。ノベルゲームのシステムとして広く知られる”選択肢”を排したタイトルとなっており、プレイヤーは1本のシナリオを鑑賞する形でプレイする


今回の記事では、本作未プレイの方に向けて、ネタバレを極力避けた形で、キネティックノベル最新作『LOOPERS -ルーパーズ-』の魅力をお届けする。

(ライター:浅葉たいが)

ユーザーを心地よく裏切る”ループもの”の新たな切り口

主人公のタイラは、GPSを使った宝探しゲーム”ジオハンティング”に熱中している高校生。彼は偶然出会った昔の友人たちと宝探しを楽しんでいるうちに、「時の渦」という謎の現象に巻き込まれる。時の渦に巻き込まれた人間は、同じ一日を繰り返すようになってしまうという。

▲本作の主人公・タイラ。ジオハンティングという宝さがしゲームに夢中の熱い青年だ

タイラは、時の渦の中で、同じく同じ一日を繰り返している「ルーパー」たちと出会う。繰り返す時の中での生き方を熟知したリーダー格のサイモン、その隣で静かに成り行きを見守る不思議な少女ミア。ルーパーの中には、時のループを抜け出すことを諦めたものもいるが、彼らはまだ見ぬ明日を求めて抗い続けているというのだ。仲間やミアを想うタイラのまっすぐな気持ちと、サイモンの持つ知恵があわさり、時のループを断ち切る「きっかけ」が生まれていく。

▲ミア(左)とサイモン(右)は、8月1日を繰り返しているルーパーの一員。タイラもこの不思議なループに囚われてしまう

本作のシナリオの冒頭だけを見ると、ループものの「やり直しができる」という性質を活かして、悲惨な事件に立ち向かい、それを回避するというところに盛り上がりを持ってくるタイプの物語を想像するかもしれない。ループというギミックとサスペンス的な物語の相性は抜群で、この組み合わせが好評を博した作品も多い。さらに、本作のシナリオライターは『ひぐらしのなく頃に』や『うみねこのなく頃に』などで知られる竜騎士07氏が務めているので、『LOOPERS -ルーパーズ-』も『ひぐらし』、『うみねこ』的に、ショッキングな出来事がたくさんあるのだろう……と考える人もいるだろう。

▲序盤の狂気的な描写は圧巻だが、本作の物語の方向性は意外な方向へと向かう

しかし、『LOOPERS -ルーパーズ-』は、ループものには珍しい”やさしい物語”である。序盤でこそ、突然目の前で倒れる友人や、凄惨な事件を仄めかす衝撃的シーンがあるのだが、その解決はこの物語の本質ではない。ネタバレを避けるためぼかして書くが、本作の大きな見どころは、事件や現象ではなく、人と人のつながりの部分にある。旧知のキャラクター同士の関係、新たに出会った仲間たちとの間で生まれていく新しい関係、そして仲を深めることで見えてくる身近な人間の本当の姿。こうしたキャラクターに焦点を当てた要素が、実に美しく描かれているのだ。

タイラの「宝探しを趣味にする主人公」という設定はちょっと突拍子もない気がするが、こちらも本作で描かれるドラマにおいて重要な役割を果たしている。全年齢向けということで若年層に向けた物語かと思いきや、大人にも刺さる要素もしっかりと入っている。

▲もちろん、”萌えゲー”的なイベントも満載。ヒロインであるミアの魅力にやられる人も多いはず

キネティックノベルの意義

本作は、キネティックノベルというジャンルを掲げている。キネティックノベルとは、Keyをブランドのひとつとして抱えるビジュアルアーツが提唱するジャンルのひとつで、大きな特徴として、ノベル型のアドベンチャーゲームで採用されることの多い「選択肢によるシナリオ分岐」を極力廃しているという点が挙げられる。プレイヤーは、映画のようにひとつの物語を鑑賞するというわけだ。

『LOOPERS -ルーパーズ-』をクリアーするまでにかかるプレイ時間は5~6時間といったところだろう。ボイスを聞かずにスキップするならもっと短くなる。本作の価格やプレイ時間などを並べると、冒頭で書いたようにカジュアルに遊ぶゲームという印象を持つかもしれないが、本作をプレイしたあとには、傑作か否かは価格やプレイ時間で決まるものではないという考えがよぎる。本作の中には、Keyの強みである泣きゲーのエッセンスが確かに存在しており、そのうえでループものというおなじみのジャンルで新しい切り口を見せてくれる傑作でもある。

▲選択肢が存在しないため、オートプレイで1本のドラマを鑑賞するように読み進めることもできる

プレイ時間が大作に比べて短いため、お手軽に遊べる作品というのは間違いではないのだが、それは薄味な作品であることを意味しない。遊んだあと、しっかりとプレイヤーに切ないシナリオの爪痕が残る、僕たちの大好きなKey作品の味わいが確かにあるのだ

大作といわれるノベルゲームをプレイしたあとの満足感を知っている人も多いだろう。Keyの作品でも『AIR』、『CLANNAD』、『リトルバスターズ!』、『Rewrite』、『Summer Pockets』などはまさに超大作であり、中にはほどよくセリフをスキップしたとしても、プレイ時間が40時間を超えるものがある。さまざまなルートを見て、グランドエンディングを迎えるゲームをクリアーしたときの達成感は大きく、そこに優れたシナリオがついてきたときの興奮もたまらない。筆者もまさに大作の魅力にとりつかれていたタイプのプレイヤーで、ノベルゲームといえば超大作、ロープライス作品には見向きもしないという時期があった。

そんな筆者の考えを変えてくれたのが、2013年に刊行された『オールアバウトビジュアルアーツ』という書籍の1コンテンツとして収録した、ビジュアルアーツの馬場隆博社長のインタビューである。ビジュアルアーツ、そしてKeyについての膨大な話を聞いたそのインタビューの中で、「どうしてキネティックノベルをはじめたのですか?」という質問を投げかけたところ、次のような答えが返ってきた。

馬場氏:PCゲームって重いんですよ。一周プレイするのに40時間くらいかかるでしょう? だから、PCゲームの方法論を活かして、プレイ時間が2~3時間の、もっと簡単にやれる短いものを作ろうと思ったんです。でも、これが意外に流行らないんですね(中略)ゲームユーザーはもっと重いもの、長い話をくれという。

馬場氏:ゲームユーザーに、キネティックノベルが文化として受け入れられるまで粘り強く啓蒙していくしかない。

『オールアバウト ビジュアルアーツ ~VA20年のキセキ~』(ホビージャパン社)より

瞬間、インタビューの空気が引き締まったのを感じた。インタビューに伺ったとき、まだ筆者は若造だったので「Keyのゲームが大好きです!」みたいなオーラを隠そうともせず、馬場氏にビジュアルアーツの過去から未来の話を伺っていた。創業秘話に目を輝かせ、Keyのエピソードは文字通り前のめりになって聞いていたと思う。馬場氏は実に話上手で、最初にあった緊張感は心地よくほぐされ、インタビューはなめらかに進んだ。

しかし、キネティックノベルの応答は、聞き手の自分にとって強烈な目覚ましとなった。筆者はまさに「もっと重いもの、長い話をくれ」と願っているユーザーだったからだ。馬場氏が筆者や、そういったユーザーを非難したわけでは全くないが、筆者の中にこびりついていた価値観が一枚はがされ、新しいものに目をむけるきっかけをくれたのがまさにこのインタビューだった。

確かに、40時間というと、1時間のドラマで40話、45分のものならば50話以上を鑑賞できる。多くの海外ドラマであれば24話×2シーズンくらいを見終われる時間である。アドベンチャーゲームに慣れたプレイヤーならともかく、そうではない人、そして忙しい人には気軽に差し出せる時間ではない。

40時間の大作は確かに、ノベルゲームファンが求める傑作かもしれない。しかしそれは、短く気軽に触れられるゲームの価値を否定することにはならない。長編小説にも短編小説にも傑作があるのだから、ノベルゲームにも同じことが言えるだろう。そして、短く気軽に触れられるノベルゲームは、このジャンルに触れたことがない人の入り口となってくれるかもしれない。

馬場氏の言葉通り、ビジュアルアーツは、キネティックノベルを粘り強くリリースしている。そして、蓋をあけてみると、どの作品もフルプライスの作品と並び立つ存在感がある。キネティックノベルの第一作とされるのは、2004年に発売された『planetarian』で、この作品の泣かせるシナリオにはいまだ根強い人気があり、2021年にも新しい展開が予定されている。そして、2016年発売されたキネティックノベル『Harmonia-ハルモニア-』も、Keyらしい”泣きゲー”として一定の評価を得ている。

今回の『LOOPERS -ルーパーズ-』は、挑戦的かつ、多くの人に刺さるであろう傑作となった。馬場氏が言う”プレイ時間が2~3時間”には収まっていないように感じるが、これは制作陣のサービス精神ということにしておこう。スペックや価格、事前の情報だけではわからない、遊んではじめてわかるものが本作には詰め込まれている。

これで1980円は、正直安すぎる(もちろん、ディープなファンになりそうな方は、サントラがセットになった初回限定版や豪華限定版といった選択肢もある)。

しかし、このお手頃な価格があるからこそ、美少女ゲームファン、アドベンチャーゲームファンはもちろん、これらのジャンルをプレイしたことがないという人でも、気軽に手にとって遊べるものになっている。

筆者と同じく、美少女ゲーム、アドベンチャーゲームのファンの方で、本作をプレイして何か揺さぶられるものがあったのなら、周囲の方におすすめするタイトルとして『LOOPERS -ルーパーズ-』を心の中に忍ばせておいてほしい。

本作をプレイした方から、新たなノベルゲームファンが出てくるかもしれない。新しいファンが周囲にできたらしめたもの。筆者ならそこから引き込みにかかる。「Keyにはほかにもめちゃくちゃいいゲームがあるんだよ。『CLANNAD』とか!新しいのなら『Summer Pockets』もいいと思う!」なんて語りながら。


■タイトル:『LOOPERS -ルーパーズ-』
■ブランド:Key
■ジャンル:全年齢向けキネティックノベル
■発売日:発売中
■価格:ダウンロード版 1,980円(税込)
パッケージ版 初回限定版 5,280円(税込) /豪華限定版 10,780円(税込)
■対応OS:Windows Windows:8.1/10
■スタッフ:原画 望月けい、シナリオ 竜騎士07
■公式サイト:https://key.visualarts.gr.jp/kinetic/loopers/

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