【レビュー】創作というテーマに立ち向かう『創作彼女の恋愛公式』は、美少女ゲームファンに突き刺さる傑作だ

作中のイベントCGひとつで、プレイヤーの心をつかむような作品がある。

『創作彼女の恋愛公式』はまさにこのタイプの作品で、イベントCGがとにかく美しく、それ一枚でキャラクターの心情も、情景も、雰囲気も余すことなく伝えてくる。

本作はAino+Links(アイノリンクス)というブランドの新作で、原画は数々の名作を手掛けた有葉 氏が担当。アートディレクションは情緒あるシーンを持つ作品を多数手がけた志水マサトシ氏。コアな美少女ゲームファンならこの時点で、大きな期待を抱くだろう。

筆者もこのビジュアル面での強みに惹かれて本作をプレイしたのだが、予想を遥かに超えるドラマとしての完成度に驚かされた。美少女ゲームとしての恋愛描写の巧みなことはもちろん、本作の登場人物たちの多くが抱える「創作」にかける想いがプレイヤーを強烈に揺さぶってくるのだ。

本記事では、 『創作彼女の恋愛公式』 の魅力を、ネタバレ成分少なめでお届けする。

(ライター:キタノアラタ)

クリエイターたちの想いが交差する

主人公の鏡寿季(かがみとしき)は、同人ゲームを制作し、商業でライトノベルを執筆した実績のある駆け出しのクリエイター。しかし彼は、過去のある出来事からスランプに陥り、それを克服するために 様々な分野のクリエイターやクリエイター志望者が集まる”私立才華学園”へと入学する。学校に通うために上京した 寿季は、幼馴染であり執筆のライバル彩瀬逢桜(あやせあいさ)と再会する。

そして学園では、かつて 寿季が制作した同人作品が同世代にも知られる名作のひとつだったこともあり、彼の周囲に次第に人が増え始めていく。人気沸騰中の声優として活動する月見坂 桐葉(つきみざか きりは)、官能小説を書きたいという雪妃 エレナ(ゆきさきエレナ)。そして下宿先で引きこもりを続ける女の子で、実は著名イラストレーターの凪間 ゆめみ(なぎま ゆめみ)。 スランプの中にあっても創作意欲を失わない寿季と、魅力的なヒロインたち、そして寿季の熱気に誘われて集まってきた仲間たちが共鳴し、クリエイターたちの成長と恋愛の物語が描かれていく。

▲主人公の幼馴染である 彩瀬逢桜(あやせあいさ) 。彼女は気鋭の若手小説家として商業デビューしている。かつて主人公の転校をきっかけに離ればなれになり、その後音信不通となったが、上京後に偶然再会する
▲ 主人公の憧れの声優・月見桐奈(つきみきりな)こと、 月見坂 桐葉(つきみざか きりは) 。一見完璧に見える美少女だが、思わぬ裏の顔も持っている
▲雪妃 エレナ(ゆきさきエレナ) は、北欧系のクォーター美少女。天然気味でつかみどころがないが、 官能小説の執筆には並々ならぬ情熱を見せる
▲主人公の下宿先に住む引きこもりクリエイター・凪間ゆめみ(なぎま ゆめみ)。一見怠けものだが、著名イラストレーターとして知られており、即売会などでも高い人気を誇る

本作の大きな特徴は、”創作”に重きを置くクリエイターならではの出来事や悩みが描かれることだろう。美少女ゲームというある意味ファンタジーな枠組があるため、主人公の周囲はすぐさま美少女ばかりのハーレム状態のようになるのだが、主人公も、ヒロインたちも、そしてその他の登場人物たちも、クリエイターとしての情熱と悩みを抱えている。その情熱や悩みは、デフォルメされてはいるが、ところどころに確かなリアリティがある。

綺麗ごとばかりではなく、他のクリエイターへの妬みやひがみ、時には「どのようにして将来、生計を立てていくか」といった生々しい話も出てくる。また、物語の一要素として”アドベンチャーゲーム作り”というテーマが含まれており、ここには美少女ゲームのシナリオライターの思い入れや考えがチラリと顔を見せる。

それどころか、美少女ゲームの性質を鋭く掘り下げ、弱点ともいえる部分をさらけ出し、物語の材料へと変えているのだから面白い。

▲美少女ゲームの弱点を曝け出して会話に混ぜ込むなどなど、挑戦的な取り組みが多い
▲クリエイターものということで”作中作”も登場するが、その描かれ方も見事。作中作の具体的な内容やグラフィックもきっちり描かれている

クリエイターたちとの恋愛は、甘くて、切ない

物語序盤からハーレム状態へと突入し、美少女ゲームのお約束のごとく、ヒロインたちが主人公に構いまくってくれる展開が訪れるが、真の恋愛成就には山あり谷あり、さまざまな試練が待ち受けている。この山と谷の緩急がスピーディかつ、冗長なシーンが存在しないため、没入感を損なうことなく読み進められるのも本作の魅力だろう。序盤だけでも物語の疾走感は凄まじく、幼馴染と再会し、憧れの女性声優と偶然出会い、さらには思わぬ告白を受けて彼氏彼女の関係になってしまい……という怒涛の展開である。

▲憧れの声優であった 月見坂 桐葉(つきみざか きりは)から、突然告白を受ける主人公。まだ序盤なのですが……

本作は、個別ルートに分岐する前の共通ルートの時点で、各ヒロインの内面や魅力をこれでもかと描き切ってくる。そして満を持して、とある箇所の選択肢によって個別ルートに移行するのだが、この選択をする時点で”選ばれなかったヒロインのこと”を想像してしまうのだからたまらない。美少女ゲームというと、お気に入りのヒロインのエンディングを見て、その他のヒロインのエンディングを見るという遊び方をする人が多いだろう。筆者も基本的にはそのように遊ぶのだが、この作品の場合はお気に入りのヒロインのエンディングを見た時点で、他のルートをプレイするのをやめようかと思ったくらいだ。自分の好きなヒロインの失恋描写を見たくないとまで久々に思ったのだ。と、美少女ゲームファン以外には伝わりにくい葛藤もあったが、すべてのヒロインのルートを観て、本作の凄みをしかと味わった。 プレイ後には『創作彼女の恋愛公式』 というタイトルが、雰囲気でつけられたものではなく、確かな意味を持つものとしてプレイヤーの内側へと染みこんでくるだろう。

▲ハーレム状態だからこそ、女の子同士のやりとりが発生し、時にそれが主人公とプレイヤーを悩ませる。ヒロイン同士の関係の変化も見事に描かれている

ちゃんと”エロゲー”してます

ここまでのレビューは物語の部分を語ってきたが、エロゲーとしての実用性も高い。物語重視のゲームということでエッチシーンのプレイパターンは少な目だが、”質”は確かなので安心してほしい。美麗なグラフィックでヒロインの魅力溢れる姿が見られるのはもちろん、エッチシーンのボイスが脳に刺さるような圧を持っている。秘めていた想いをぶつけ合ってようやく結ばれたところで訪れるエッチシーンでは、お互いに恥じらいつつも、欲望をぶつけ合い、受け入れていくという様子が実に艶めかしく描かれ、それがヒロインのセリフににじみ出てくるのだ。

本作をプレイする際は、エッチシーンのボイスもしっかり聞けるような環境を用意することをお勧めしたい。

ただ甘いだけのゲームではない

ゲームとは、強い創作欲求のうえで成り立つものだが、本作はその”創作”をテーマにしたことで、美少女ゲームやフィクションとしての皮を被せてマイルドにしたとはいえ”書かずにはいられなかったこと”がリアリティを帯びて偏在しており、それがプレイヤーを強烈に揺さぶってくる。また、その強烈なシナリオを支えるグラフィック、サウンド、ボイスはどれも見事で、上質な作品として記憶に残るものになっている。

学園ものの美少女ゲームというと、甘くて切なくて、ヒロインが可愛らしくて、ちょっと泣けるような要素があれば、プレイヤーとしてはなかなかに充実感がある。いかに使い古されていようが、これらの要素は正義なのだ。しかし、本作はここで満足しないことで”創作”をテーマにする作品を描ききろうとしている。そしてこのこだわりの結果、プレイヤーにとって、シナリオの好き嫌いは分かれるかもしれないが、シナリオの持つ凄みや重みはじっくりと味わうことができるのではないだろうか。特に、美少女ゲームファンの方なら、シナリオの好みを飛び越えて、刺さるものがかならずあるだろう。また、アニメ、ゲーム、ライトノベルを嗜む方、または創作に興味のある方にもぜひ遊んでもらいたい。

■タイトル:創作彼女の恋愛公式
■発売日:発売中(2021年11月26日発売予定)
■税抜価格:通常版9,800円、豪華限定版14,800円、ダウンロード版9,000円
■スタッフ
原画:有葉
シナリオ:工藤啓介
アートディレクター:志水マサトシ
SD原画:九条だんぼ
音楽:樋口秀樹、柳英一朗 from STRIKERS、西坂恭平 from STRIKERS
作中イラスト:永山ゆうのん、TwinBox

■公式サイト:http://ainolinks.com/

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