すべてのエンドを見るまで、プレイを止めたくないゲームが稀にある。筆者にとってまさに『ヘンタイ・プリズン』はこの類のゲームで、久々に寝ずにゲームをプレイした。
『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?』(通称『ぬきたし』)を制作したQruppoの送り出す最新作という時点で期待大。事前に配信された体験版を触ったところ、その期待を大きく超える暴力的なシナリオに圧倒され、これはすごいゲームになると望んだ製品版でのプレイ。
そこに用意されていたのは、18禁ゲームでしか、 そして間違いなくQruppoでしか成しえない強烈なエンターテインメントだった。
本記事では、『ヘンタイ・プリズン』の魅力を、ネタバレ要素少なめでお届けする。
なお、本作にはボリュームのある体験版( Qruppo『ヘンタイ・プリズン』公式サイト)が用意されている。プレイ前に余計な情報を仕入れたくないという方は、本レビューをスルーして先にこちらを遊ぶといいだろう。
(ライター:メトロ加賀美)
ヘンタイが集うプリズンを駆け抜ける”全裸マン”の物語
主人公の湊 柊一郎(みなと しゅういちろう)は”全裸マン”と呼ばれる性犯罪者で、服という存在が許せず、全裸にならずにはいられないという変態的な性質を持っている。衝動的に露出を繰り返す彼は、自らの露出を”芸術的行為”と考えており、服を脱ぐという行為に誇りを持っている。しかし、そんな彼の信念や言い分を法廷にぶつけた結果、更生不能の性犯罪者のみが収監される監獄”チューリップ・プリズン”に送られてしまう。
冒頭で明らかになる要素からしてあまりにも強烈で、あまりにもユニーク。露出狂が主人公のゲームなんて盛り上がるのか……と思う方もいるだろうが、心配は無用だ。本作は、最初から最後まで全力で、濃厚な物語をプレイヤーにぶつけてくれる。
序盤は、笑いを織り交ぜつつも、チューリップ・プリズンの理不尽な仕組みが描かれる。ここでは、猥褻な行動はもちろん、猥褻な想像も厳しく取り締まられている。囚人たちときたら更生不能の猛者たちで、隙あらば淫らな妄想をする者や、言い逃れの余地のある内容で性的興奮を覚える”脱法おファック”という行為に耽る者もいるが、こうした行為には処罰が課せられる。
囚人たちには”相姦係数”というパラメーターが与えられており、これは「自分がどれだけ犯罪に関係しているか」を示すものである。この相姦係数は刑期ともかかわっており、品行方正にして過ごして数値が0になれば仮釈放の権利を得られる。しかし、遵守事項への違反が認められるとこの数値が増加し、数値が増えた場合は懲役の期間が延びてしまうという仕組みになっている。
そして、ただ厳しいだけでなく、そこにはさまざまな人物の感情や思惑がノイズのように状況をかき乱していく。チューリップ・プリズンの職員たちも、常に正しい人物とは限らず、一見正しい人物のように見えても、感情的になり囚人に過剰な罰を与えることもある。プレイヤーは本作をはじめて間もなく、囚人だけでなく職員も「イカれている」ことに気づくだろう。
そんな恋愛など成立しそうにないチューリップ・プリズンという環境で、3人のヒロイン、 紅林ノア 波多江 妙花(はたえ たえか)、 千咲都(ちさと) たちと仲を深めていくことになるのだが……。その驚くべき物語は、ぜひプレイしたうえで確かめてほしい。
本作の勢いあるテキストを読んでいると、 ギャグに振り切った作品なのではと感じるかもしれない。看守長のひとりの名前がソフィーヤ・シコレンコだったり、そのあだ名が「ソフりん」だったり……。主人公が自らのイツモツを「アマツくん」と呼び、会話をしはじめてしまったり……。ネジの飛びまくった設定や、ライン上ぎりぎりを走るようなキャラクターの会話を見ていると、感動できる要素はあるのだろうかと思う方もいるだろう。だが、これも心配無用。
本作には、笑いだけでなく、熱さや切なさもぎっしり詰まっている。
プレイヤーから見て、理解できない登場人物たち、そして埋まりそうにない登場人物同士の溝。そうしたものが微かな線で繋がり始めたとき、本作の凄みが滲み出てくるのだ。
18禁ゲームという土俵を活かした怪作
本作は18禁止のいわゆるエロゲーと呼ばれるジャンルに属する作品だが、エロゲーでしか成しえない設定と物語を振り回す作品である。いわゆる「抜きゲー」と呼ばれるタイプの作品とは異なり、エッチシーンが序盤から盛りだくさんというわけではない。
しかし、”性犯罪者”にスポットを当て、それをエンターテインメントにするという時点でエロゲーでしか成しえない表現なのだ。ゆえに、ふと立ち止まるとダークで、リスキーな雰囲気すら覚える瞬間があるが、怯むことなくエンターテインメントに昇華しているところに本作の面白さと唯一性がある。
あくまでフィクション、そしてエロゲーなんだから倫理感とか社会規範とか気にしても仕方がないというのも考え方のひとつだが、最近エロの世界もまるっきり自由というわけではない。性犯罪者をテーマにするというのはちょっとどうなのかと思う方もいるかもしれないが、本作はなんと、この危険なテーマをエンターテインメントにするだけでなく、「真摯に向き合う瞬間」も用意されている。この向き合い方は、万人を納得させるものではないだろうが、作品の、作り手の叫びのような迫力を持ってプレイヤーに届けられる。その瞬間を目撃することで、すべての人が本作を肯定できるとは思わないが、本作について語る場合は、ぜひこのシーンまで、できることなら最後までプレイを進めてほしい。
ちなみに、エッチシーンについては、物語重視のゲームなので、多くはヒロインとの仲を深める後半に用意されている。そうすると実用度的にはまあ普通で、あくまで物語を楽しむゲームなのだなと考える方がいるかもしれないが、本作にはヒロイン別の「アフターシナリオ」などで濃密なエッチシーンが複数用意されている。”絵柄に惹かれて購入する”という方も、きっと満足することだろう。
『ヘンタイ・プリズン』は、きっと多くのプレイヤーを揺さぶるだろう
プレイヤーを驚かせる鮮やかな伏線や、ぐっと来るシーンといった見せ場だけでなく、チューリップ・プリズンで繰り広げられる出来事や会話の節々に、プレイヤーを笑わせにくる”小ネタ”が織り込まれているのも本作の大きな魅力だろう。SNSで話題をさらった出来事や、近年のゲームシーン、はたまた美少女ゲーム界隈のニュースなど、そういったものに触れているプレイヤーをくすぐる小ネタが、絶妙なタイミングで飛び出してくるのだ。それにすべて気づくことは難しいだろうが、ゲームを趣味とする方なら、いくつかはきっとひっかかるものがあるはずだ。
こうした小ネタは、本作に心地よいテンポを生み出している。一見ノーブレーキで書かれたようなシーンもあるが、全体を通してみると、その裏に緻密な調整を感じる。なぜなら、本作の小ネタはひっぱりすぎず、くどすぎない。そのうえ、小ネタをスルーしたとしても、物語はなんの問題もなく理解できる作りになっている。
シナリオの良し悪しというのは、プレイヤーごとの好みによって評価が分かれる部分だが、本作をプレイしてその描きこみに疑いを持つ人はいないだろう。
筆者は『ヘンタイ・プリズン』の虜だ。こんなにも楽しく、刺激的な時間を過ごさせてくれる作品が、美少女ゲームというジャンルの中に存在していることが、幸せでならない。
興味のある方は是非、プレイすることを検討してみてほしい。
■タイトル:『ヘンタイ・プリズン』
■ブランド:Qruppo
■ジャンル:ADV
■スタッフ
企画:ナガトサチ
原画:浮丸つぼね 如月千幸 イチトレイ
シナリオ:倉骨治人 神近ゆう
ディレクション:Oshino・LowLevel
背景:胡太郎、フーモア
音楽:えびかれー伯爵、池木紗々、かしこ、ウミガメ
ムービー:Syamo
WEB制作:shotaro ichinose
■発売日:2022年1月28日
■対応OS:Windows:8.1/10
■公式サイト:https://qruppo.com/products/henpri/