トコちゃんが動く!『世界でいちばんNGな恋 ハピネスモーション』を遊んでみた【あの頃の美少女ゲームをもう一度】

2007年に『世界で一番NGな恋』の初報を見たとき、みこしまつり氏の描く陽坂 美都子(ひのさか みとこ)というキャラクターにしばらく見入ってしまった。テラスハウス陽の坂というオンボロアパートの大家代理を務める小さなその女の子の容姿にやられてしまったのだ。本作は年の差恋愛をテーマにした作品で、主人公は28歳の芳村 理(よしむら おさむ)、対する美都子(通称トコちゃん)は、エロゲーなので明記はされていないが、グラフィックからうかがえるように、まだまだ発育途上の女の子である。

作中でトコちゃんはかなり幼く描写されており、幼さゆえの暴走も多い。しかし、ゲーム内の主人公である理と同じく「なんと言われようがトコちゃんが好きである」という強い態度で本作をプレイした。背徳感と純愛を絶妙に編み合わせたシナリオも頗る面白く、この作品が筆者の中のナンバーワン・美少女ゲームとなっている。

先日、本メディアでライターを務める友人から連絡を受け「美少女ゲームの紹介記事を書かないか」という話をもらった。ゲームライター的なことは細々続けていたので、声をかけてくれたのだろう。しかし『NG恋』をプレイした頃から、筆者はエロゲーから徐々に離れ、ここ最近の作品は全くプレイしていない。そのことを正直に伝え、断ろうとしたところ、「2018年に『NG恋』のちょっとしたパワーアップ版が出てるんだよ」という情報をもらってしまった。なんと『世界でいちばんNGな恋 ハピネスモーション』というタイトルになり、E-moteという立ち絵を動かすシステムに対応。そのうえエッチの一部もアニメーションするという。恥ずかしながら、大好きな作品なのに全然知らなかった……。

発売当時夢中で遊び、キャラクターCDなどのグッズも集めていた作品だが、その後次第に美少女ゲームから遠野のいてしまったので、コンシューマー移植版以降の展開は知らなかったのだ。そして、素直に「それなら遊んでみたい。何か書いてみたい」という気持ちになった。

本記事では、『NG恋』が最高のゲームであると信じる筆者が、『世界でいちばんNGな恋 ハピネスモーション』をご紹介する。

(ライター:矢野目jipe)

テラスハウス陽の坂

主人公の芳村 理(よしむら おさむ)は、勤めていた会社で起きた不正行為の責任を押し付けられて失業してしまう。理は自暴自棄になり、路頭に迷うが、温かい飲み物を差し入れてくれた女性に恋したことをきっかけに、刹那的ではあるが生きる目的を取り戻す。理は告白する決心を固め、彼女の住む場所を訪れるが、驚くべきことに理の恋した女性は、駆け落ちの末に失踪してしまったという。それどころか、テラスハウス陽の坂の大家という立場も放棄し、娘である美都子を残していなくなってしまったというのだ。その日を境に、理の人生は、予想だにしない方向に転がり始める。

本作ではどん底まで落ちた理の再生と、それに伴うヒロインたちとの恋模様が描かれる。理は物語冒頭ではダメな大人のお手本のような行動を見せるものの、もともと彼はデキる会社員であり、気づかいもできる優しさも持ち合わせている。そんな彼の素の部分に触れたヒロインたちが、徐々に理のことを異性として意識しはじめていくのだが、それは年の大きく離れた美都子も例外ではなく……。

本作には美都子のほかに3人のヒロインが登場する。主人公の新しい職場の同僚となる夏夜、巨大企業の会長令嬢である姫緒、そして主人公の元妻である麻美である。彼女たちは理とは大きく年齢が離れていないため、個別ルートではエロゲー的なファンタジーをトッピングした大人の恋愛が楽しめるようになっている。

しかし、美都子ルートは、一筋縄ではいかない展開となっていて、理と美都子いずれもが歳の差や立場の差を意識して素直になれない。そして二人の周囲の人物もその危険な恋愛に警鐘を鳴らしたりする。恋心に気づきながらも、いろいろな理由をつけてそれを抑圧する理と美都子の葛藤、そしてついに耐えられなくなって、葛藤や道徳を、恋心が破壊する瞬間こそが、本作の大きな見どころとなる。

▲左から姫緒、美都子、麻美、夏夜。いずれもリッチな個別ルートが用意されているが、本作のメインヒロインは……といわれると、最も尺を使っている美都子なのは間違いないだろう

理と美都子がすべてを曝け出したあとに始まる、二人の恋愛は勇敢そのものである。抑圧されていた分だけ、結ばれたあとの愛情表現が強烈になってしまうのだろう。

とくに美都子の理への愛情表現はいつも全力で、どきっとするようなセリフを、実に感情たっぷりに投げかけてくる。美都子の年齢ならではの感性で紡がれる愛の言葉は、大人から見ればロマンティックが過ぎるが、彼女の口から発せられることで、プレイヤーを蕩けさすような一撃となるのだ。「あたしのために、罪を犯して。あたしのために、後ろ指、指されて。あたしのために…、地獄に堕ちて、ね?」とか、このゲームでしか、このヒロインでしか許されない素晴らしいセリフではないだろうか。

……と、そんな素晴らしいシナリオを描いたのは、『ショコラ 〜maid cafe “curio”〜』、『WHITE ALBUM2』などの傑作美少女ゲームの物語を手掛け、近年ではライトノベル『冴えない彼女の育てかた』シリーズを執筆した丸戸史明氏。氏の手掛ける作品の緩急にはいつも驚かされる。読み手を歓喜させる甘い展開をしっかりと用意し、そこに至るまでの予想だにしない蛇行する展開はドラマティックで読みごたえがある。

本作は2007年の作品だが、今見ても”お約束”から外れた痛快なシーンや、意外な設定が散りばめられており、そのうえでプレイヤーの求める甘いシーンを、これ以上ない心地よさで届けてくれる。

ハピネスモーションで『NG恋』がより遊びやすくなった

オリジナル版の良さを語ってきたが”ハピネスモーション”版では、キャラクターの立ち絵の一部をアニメーションさせるE-mote(エモート)という技術が採用され、画面がより華やかになった。そのうえエッチシーンもアニメーション対応しているため、よりエロティックな作品に生まれ変わったといっていいだろう。画面比率が4:3のままなのは部分はややレトロな感覚があるかもしれないが、ここを仕様変更しなかったことで「みこしまつり氏が原画を手掛けた繊細なCG群を、オリジナルに近い形で鑑賞できる」作品になっている。みこしまつり氏の描く美少女キャラクターは本作に限らず、実に艶っぽい魅力がある。

また、ユーザーインターフェース部分も刷新されており、シーンジャンプなどが追加されたことで遊びやすくなっている。今回レビューを書くにあたって遊んだのはFANZA GAMESのダウンロード版だが、こちらはしっかりとWindows10に対応しており、キビキビと動作してくれた。古い美少女ゲームとなると、現行のOSで遊べない場合もあるのだが”ハピネスモーション”版なら安心して遊べるのは嬉しいところだ。

やっぱり『NG恋』は最高である

オリジナル版から15年ぶりくらいに、コンシューマー版からは10年ぶりくらいに本作をプレイしたが、やはり本作は筆者にとって最高の美少女ゲームである。美少女ゲームからは遠のいていたとはいえ、いろいろなエンターテインメントに触れてきた筆者が、再び本作を遊んでぐわんぐわんと心を打ち鳴らされているのだから。

美少女ゲームの人気ジャンルである純愛ものには、幸せな恋愛のスパイスとして、葛藤、失恋、挫折なといったビターな要素が含まれることが多い。そして、こうしたビターな要素を、なんらかの形で恋愛の糧へと昇華するという作品も多い。しかし、この純愛ものというジャンルを遊びなれてくると、ちょっとやそっとのビターな要素には慣れっこになってしまい、「お決まりの展開か……」とふと冷静になってしまうことも出てくる。かつて『NG恋』を手にする直前の筆者はまさにそんな状態で、ぶっちゃけてしまうと恋愛ものに飽きていた。

しかし本作には、恋愛ものに飽きてしまった筆者を、ぐっとひきつける複雑な味わいがいくつもの箇所に散りばめられていた。やりすぎにも感じる歳の差恋愛だったり、やるせなすぎる挫折や、純愛ものとしてはなかなか見ない妥協だったり。こんな二人が、物語が、フィクションとはいえがうまくいくのだろうかと気になって仕方がなくて、夢中でプレイを続けた。

そうして辿り着いたエンディングでは、主人公とヒロインが力強く作りあげる二人の世界が強烈に示される。本作のいくつかの結末は、大団円という言葉にはできないものだろうと思う。しかし大団円ではないからこそ、フィクションなのに仄かにリアリティを感じて、強烈に惹きつけられて、憧れてしまうような深みがあるのではないだろうか。 


■タイトル:世界でいちばんNGな恋 ハピネスモーション
■発売日:発売中(2018年2月23日)
■ブランド:HERMIT
■原画:みこしまつり
■シナリオ:丸戸史明with企画屋
■ゲームジャンル:年の差カップルホームコメディAVG
■価格;パッケージ版 8580円(税込)、ダウンロード版 8030円(税込)
■公式サイト:http://www.hermit-game.com/NG_happiness/

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