2022年8月26日にCUBEから発売となった『夏ノ終熄(ナツノオワリ)』は、主人公のユウジと、孤独を抱える女の子・ミオの恋愛模様を描いた作品だ。一人のヒロインの魅力を深く掘りさげ、同時に世界満ちている滅びの気配を絶妙に描いた作品となっている。
伝染病が蔓延する世界で、小さな愛が生まれる
本作の世界には、謎の伝染病が満ちている。多くの人がこの伝染病にかかり、次々と亡くなっていくので、世界は終わりに向かっているように見える。主人公のユウジは、就職中の辛い出来事をきっかけに、田舎の祖母の家へと移り住んだ若者。自然の中で療養することを目的に、田舎暮らしをはじめたのだった。
その田舎暮らしを動画にしたところ、視聴してくれる人が徐々に増え、自給自足の生活の足しになるくらいの収入を得ることに成功している。しかし、ユウジは満たされることなく、いつか来る終わりに思いを馳せている。
そんなユウジの暮らす田舎に、一人の女の子が迷い込む。ミオと名乗るその女の子は、ユウジの心に小さな火を灯すほど魅力的だった。彼女もまた、ユウジと同じく、辛い出来事に晒され、自ら死を考えるほどになるくらいの状況に陥っていた。ユウジは、ミオを自らの住む場所に招き入れる。今にも消えてしまいそうな彼女を、放っておけなかったのだ。
一人で生きていれば、静かに終わっていくはずだったユウジとミオが、二人の共同生活を経て、少しずつ変わっていく――。
――ということで主人公ユウジとミオは、出会って間もなく共同生活を始めることになる。
最初は、恋愛感情ではなく、滅んでゆく世界の中で生きる術として身を寄せ合う二人だったが、ミオはユウジの優しさに、ユウジはミオの飾らない部分に惹かれ合っていく。二人の想いが重なり、結ばれた頃、忘れかけていた世界の過酷さが牙を剥く。伝染病に侵されつつある世界では、二人で慎ましく生きるということも、簡単には叶わないことなのだ。
物語もここから大きく動いていくが、その未来はプレイヤーの”選択”によって変化していく。
美しいビジュアル&サウンド情緒的なシナリオ
情緒的なシナリオを美しく描くCGと、深みを持たせるサウンドも本作の大きな魅力。人気イラストレーター・うみこ先生の原画をもとにした数々のシーンは、実に見ごたえがある。音楽も、静かな世界観を見事に表現しており、心地よく作品をプレイできるだろう。田舎暮らしの中で見られる背景CGもみどころたっぷり。山や川はもちろん、ユウジの住む家のリビングなどを見ていると、街の喧騒を離れた暮らしに憧れが湧いてくる。
また、美少女ゲームの醍醐味であるエッチシーンは、ミオの魅力が弾けるものとなっている。最初は初々しい反応を見せるミオだが、経験を積むうちに次第に大胆になっていき、さまざまなシチュエーションでのプレイが見られるようになる。
一目惚れしたら、ぜひプレイを!
滅びゆく世界という大きな舞台を用意しながら、田舎で暮らすユウジとミオに焦点を当て続ける作りは実にユニークだ。世界がどうなってしまうのかという心配事よりも、目の前にいる大事な人を想い、行動する二人のドラマは、大きなドラマではないが、ぎゅっと搾ったオレンジのようなインパクトがある。
ミオのビジュアルに一目惚れした方、儚さを感じるような作品の雰囲気に惹かれた方は、ぜひ本作を遊んでみてほしい。リーズナブルな作品かつヒロインが一人の作品なので、さまざまに枝葉が広がる壮大なストーリーというわけではないが、とても尊く、充実感のある時間を過ごせるはずだ。
コンパクトながらなんともいえない余韻を残す本作は、シナリオを『9-nine-シリーズ』や『なないろリンカネーション』といった名作を手掛けてきたかずきふみさんが担当している。こうした短編作のようなタイトルでも、物語をしっかりと着地させ、ヒロインをさまざまな角度から描き出すシナリオの巧みさには驚かされる。『夏ノ終熄(ナツノオワリ)』という、少し切なくて、ロマンティックなタイトルも、これ以上なく雄弁にゲームの中身を語っているように感じる。(ライター:間宮たい)
■タイトル:『夏ノ終熄(ナツノオワリ)』
■ブランド:CUBE
■発売日:発売中(2022年8月26日)
■ジャンル:田舎の村で終末を過ごすADV
■価格:初回版 4,620円[税込] / 初回限定版 7,700円[税込] / ダウンロード版 3,850円[税込]
■対応OS:Windows 8.1/10/11日本語版
■企画・シナリオ:かずきふみ
■原画:うみこ
■背景:わいっしゅ
■音楽:Peak A Soul+
■公式サイト:http://www.cuffs.co.jp/products/endofsummer/