『さよならを教えて 〜comment te dire adieu〜』や『for elise ~エリーゼのために~』などを残したアダルトゲームブランド・CRAFTWORK。そんな同ブランドは11月24日におよそ22年ぶりの復活作として『Geminism~げみにずむ~』を発売した。
体験版がリリースされたことで、謎めいた物語の序章が明かされたが、それでも本作の全貌どころか、片鱗すらほとんど見えてこなかった。体験版では、暴力的でエロテイック、そして奇抜な設定と、コアな美少女ゲームファンを惹きつける要素があることは判明したが、「どのような方向に物語が進むのか」は予測できなかったのだ。しかし、製品版の発売を迎え、本作の物語を観終えたプレイヤーからは、CRAFTWORKらしい「傑作」との声も聞こえてきている。
本記事では、その魅力を、ネタバレ要素少なめでお届けする。
残酷な殺し合い……だけじゃない
本作には、原案/原画/監修として長岡建蔵氏、シナリオ補佐に石埜三千穂氏、音楽にさっぽろももこ氏と、かつてのCRAFTWORKのチームが再集結している。加えて、シナリオを商業漫画化・イラストレーターとして活動する旭氏が執筆する。このクリエイター陣に惹かれるという美少女ゲーマーの方は、本作にどっぷりと浸れる可能性が高い。そう、本作は、プレイヤーの中にある何かを揺さぶるような、強烈な作品なのだ。
また、CRAFTWORKというブランドや、そのスタッフの名をはじめて聞くという方も、「今までにない衝撃」をもたらす18禁美少女ゲームであることを保証したい。本作は、「18禁美少女ゲーム」というジャンルのもつ表現の深みを活かした、唯一無二の体験を見せてくれる怪作なのだ。
本作の物語は、顔も背格好瓜二つの双子姉妹がまるでゲームかのような形式で殺し合い――作中では“仕會わせ”と呼ばれる――を行うというものだ。2人の身体は、「頭を除いた四肢や胴体がパーツ分けされている」のだが、「そのパーツはあわせて一人分」しかない。足りない部分、つまり、相手に取られている部分は感触はあるが実体がない“幻肢”と化しており、これを長い間放置していると消えて無くなってしまう。
そのため、なるべく早く相手を殺して身体のパーツを奪いきらなければならないのだ。物語序盤で明かされるこの設定が、強烈な刺激とドラマをもたらしてくれる。
1回の仕會わせで奪えるのは身体の部分ひとつだけ。身体がすべてなくなるまで存在が消えることはなく、死んだとしても数日~1週間をかけて復活する。そのため、序盤の死の重さはややライトで、後のない絶望感のある殺し合いというよりは、どこか姉妹喧嘩の延長線上にあるような独特の雰囲気で物語は進んでいく。
ただ、一時的とはいえ死は死。生々しく殺された死体の一枚絵が描かれることもあり、思わずぎょっとしてしまう。復活が保証されているからか、姉妹の戦いはどこまでも残酷になっていく。ちょっと相手を傷つけるくらいでは終わらないのだ。
こうした冒頭部で知らされる設定や物語を眺めていると、暴力的かつ猟奇的な作品かと思いきや、ゲームはそう単純ではない。仕會わせではない場面で「キャラ同士の尊い関係性」という意外な角度からの楽しみ方があることに気づかされるはず。登場する人物たちが、思いがけぬやりとりや人間関係をドラマとして見せてくれるうえ、物語の序盤、中盤、終盤と進むにつれて、キャラクターの間に流れる感情がより色濃く描かれていく。難解なテーマは苦手、残酷すぎるのはちょっと……といった人にもぜひおすすめしたい。
登場人物は少なめだが、ドラマは濃厚
本作の主要キャラクターは4人。主人公のひとりが廣杣桔梗(ひろそま・ききょう)だ。双子のうちの一人で、青いリボンがトレードマーク。性格はややおっとりとしているが、嫉妬深い一面もある。双子姉妹のもう一方であり、赤いリボンがトレードマークの廣杣深紅(ひろそま・しんく)は、ややツンとしたクールな性格だ。
そして、仕會わせを仕切っているのが、2人の怪しい男。全身を包帯でグルグル巻にした見るからに怪しい風貌で、まるで戦時中のような古風なの山家淡墨(やまが・あわすみ)と、長髪で美形でありながら軽口ばかり叩く月城月白(つきしろ・つきしろ)の2人だ。
4人全員が個性的なビジュアルをしており、制服や学ランを思わせる衣装も目立つ。双子は可愛く、男性陣を見ても格好良さが際立っている。男性キャラクターが魅力的な美少女ゲームは数多くあるが、本作の男性キャラクターの存在感はとにかく迫力がある。
双子の違いにも注目
最初にプレイヤーが読むことになるシナリオは、桔梗を主人公としたシナリオだ。残酷かつ過激な仕會わせ以外の時間には、桔梗は淡墨、深紅は月城の家で過ごすことになる。このシーンは意外にもほっこりするような、比較的平和な描写が多い。硬軟使い分けながら、プレイヤーの想像を超える物語が、猛スピードで展開されていくのが本作の特徴だろう。
桔梗は淡墨が外で仕事をできない関係で内職の収入しかなく、貧乏な暮らしをしている。一方深紅は月白が夜職を行なっているため、比較的裕福な生活を送っている。
淡墨家は自由に使えるお金が少なく、食べ物も買ってきた安めの弁当や、淡墨が作る質素な料理ばかりで、憧れの“女の子らしい”服などもなかなか買えない。時々深紅が裕福な生活を送っていることを知って癇癪を起こすこともある。こうした姉妹のコントラストも大きな見所となるだろう。
かつて双子は“箱入り娘”的な育てられ方をしていたために世間のことを多く知らず、淡墨および月白との生活には新鮮さを感じているところもあるようだ。お菓子やかわいい服などはもちろんだが、桔梗は内職仕事ですらも仕事への憧れを持って楽しんでいたりする。“普通”にちょっとだけ近い生活に目を輝かせる双子の描写は子どものようで愛らしいと感じると同時に、人間としての常識が欠けすぎているように見えることもある。穏やかな日常に目をこらすと、どこか不穏さがにじみ出てくるという構造も実に見応えがある。
感覚共有という要素を活かした描写
エッチシーンも本作ならではの怪しさに満ちている。
序盤の仕會わせでは桔梗は腰部(月白いわくおま○こ)を取られてしまい、幻肢となってしまう。しかし、ある日お風呂に入っていると、なぜか股に快感を覚え、少し不思議な気分に包まれるという事態に。
実は、双子同士は感覚を共有しているという。
すべての感覚を共有しているわけではないが、強い痛みや快感などはもう一方にも伝わってしまうのだ。桔梗が何もしていないのに股が気持ちよくなったということは……そう、深紅が何かしらエッチなことをしているのだ。どちらの立場であっても、そのシーンのエロさだけでなく、相手はどんなエッチなことをしているのか、エッチなことをしているとき、相手はどのように悶えているのかなど、妄想がはかどる。
関係性が深まっていくと、二人がエッチするシーンも楽しめる。桔梗と淡墨の関係性に対し、プレイヤーの感情も高まった状態にあるため、エッチシーンも非常に感慨深いものになっている。
以上、本作の魅力と概要を、決定的なネタバレを避けつつ説明してきた。これ以上の紹介は野暮と思えるほどに、“仕會わせ”をめぐるドラマは見ごたえがある。
怪しい世界観と設定の中で繰り広げられるCRAFTWORKの描く新境地は、かつての作品とは違う確かな独自性を持っている。そしてそれは、このブランドを愛する人はもちろん、そうではない方をも虜にするだろう。
本作は、残酷で暴力的な描写も多いため、人を選ぶ作品なのかもしれない。しかし、あえて、「本作は多くの人に遊んでもらいたい傑作である」と述べておきたい。
淡墨と月白が“仕會わせ”をさせる理由とは?“仕會わせ”を行なった先に何が待っているのだろうか? 序盤から漂う謎の答えを求め、「殺し合いの残酷さ」と「キャラが持つ尊さ」が同居する怪作に是非触れてみてほしい。結末まで読み進めれば、多くの疑問は解消されていく。しかし、すんなりとは終わらない。プレイヤー自身が考えたくなるような余韻も生まれるはずだ。
復活を遂げたCRAFTWORKの描く物語を、ぜひ最後までプレイして確かめてみてほしい。
■タイトル:Geminism ~げみにずむ~
■ブランド:CRAFTWORK
■ジャンル:惜夜(あたらよ)のしあわせ探しADV
■原画:長岡建蔵
■シナリオ:旭
■シナリオ補佐:石埜三千穂
■音楽:さっぽろももこ
■発売日:2023年11月24日
■価格:通常版価格:5,170円 / ブラウザ版(β)+壁紙セット:5,720円
■対応OS:Windows 10 / 11
■公式サイト:https://www.craftwork.media/Geminism/