Lump of Sugarとスミレのコアスタッフによる共同体制で製作された全年齢向けADV『瑠璃櫻 −The Story of Defined Life−』。本作は2021年にSteamで発売され好評を博した海外版に、完全な日本語ローカライズや立ち絵の追加、演出CGやスクリプトの改修などを施しつつ、作中で使用された楽曲やテーマソングのフルVer.を収録したサウンドトラックも封入。『瑠璃櫻』完全版ともいえる内容で、2023年4月28日にリリースされたタイトルだ。
今回の記事では物語の決定的なネタバレは避けつつ、本作の世界観やストーリーの概要、主人公ミコトとヒロインのサクラの会話や心情描写を丹念に積み重ねていく、テキスト描写の魅力などを紹介していきたい。
(ライター:マンモス丸谷)
不死と短命、死への呪いに立ち向かうふたりの物語
『瑠璃桜』は、古代日本(飛鳥時代~平安時代あたり?)を思わせる文化、生活様式で、妖と呼ばれる怪異が存在し、人々の命を脅かしているという世界が舞台。本作の物語はそんな世界で妖を祓う舞姫として活動し、その結果余命わずかとなった舞姫、サクラと、妖の穢れを受ける神として不死の呪いをかけられた少年、ミコトが出会うことで幕を開ける。
本作の登場人物は、基本的にサクラとミコトだけ(両者が自身の過去を回想するシーンで立ち絵のないモブキャラが登場することはある)。ゲームはふたりの会話と行動、そして心の内を語るモノローグで進行していく。本作の会話シーン、モノローグともに丁寧な描写が特徴だ。ヒロインのサクラはもちろん、男性キャラクターのミコトの考えや心の移り変わりなどにも多くの描写が割かれているうえ、モノローグを含めたセリフはフルボイス。とくにゲーム序盤から中盤にかけては、サクラに出会ったことで荒んだ心が癒され、人間らしい感情を取り戻していくミコトの内面は掘り下げこそが、むしろ大きな見どころといえる。
全年齢向けならではの丁寧な日常シーンの積み重ね
『瑠璃桜』は全年齢向けADVということで、エッチシーンは当然存在しない……どころか、物語の流れや印象をブレさせる恐れのある、ちょっとしたお色気シーンもない。CGやその差分などは、ストーリーを盛り上げるためだけに使われているのも、本作の特徴といえる。
物語の本筋にCGがつぎ込まれているおかげか、作中で印象に残る場面はおおむねイラスト+スクリプトを用いた演出で表現。一般的な美少女ゲームだったら地味に映る描写かもししれないが、本作においてはとても重要だ。ミコトが食事する、川でつまずく、伸びっぱなしだった髪をサクラに切ってもらう……などが、しっかりと印象に残る形で描かれている。
そのうえで、物語の後半に差しかかると起こる劇的な展開、サクラの容体の変調、二度目の満月に現れる妖との対決、といったわかりやすいクライマックスシーンも、しっかりとした演出で見せてくれる。
ミコトとサクラ、ふたりのキャラクターの魅力と生き様を描くことに全力を注いでいる『瑠璃櫻』。エッチシーンやイチャラブ、ラブコメ要素などは薄いものの、日常生活やキャラクターの内面とテキストを積み重ねて描いていく形式や、映像と音楽の相乗効果で読み手(プレイヤー)の心を揺さぶる演出といった、ストーリー重視のADVやノベルゲームで得られる感動は、むしろ十二分に体験できる。
完成度が高くて温かい気持ちになれる「いいお話」を求めている人に、ぜひ触ってみてほしい作品だ。
■タイトル:瑠璃櫻 −The Story of Defined Life−
■ブランド:Lump of Sugar×スミレ
■ジャンル:ADV
■発売日:発売中(2023年4月28日)
■価格:パッケージ版・通常版・3300円[税込] / 抱き枕カバー付き版・16500円[税込]
■制作スタッフ(一部):
原画: 萌木原ふみたけ
シナリオ:雪仁
■対応OS:Windows 8.1(64bit版)/10(64bit版)/11(64bit版)
■公式サイト:https://www.lumpofsugar.co.jp/product/rurizakura/